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2026年9月29日
コラム

今回は、9月25日に東京地裁で言い渡された、公職選挙法の「未成年者の選挙運動禁止規定」に関する違憲判決を取り上げます。
1952年の導入以来、約70年にわたって続いてきたこの規定について、裁判所が判断を示したのは今回が初めてです。
判決は規定を「違憲」としながらも、原告の損害賠償請求は退けるという、一見すると分かりにくい結論になっています。本コラムでは、判決の中身とその背景を解説します。
公職選挙法は、18歳未満の人が選挙運動をすることを禁止しています。
違反すると1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科され、さらに最大5年間、公民権(選挙権・被選挙権)が停止される可能性もあります。
この罰則は、未成年者を選挙運動に使った大人だけでなく、選挙運動をした未成年者本人にも及ぶ点が特徴です。
ここでいう「選挙運動」とは、最高裁の判例上、特定の選挙で特定の候補者を当選させるために投票を呼びかける行為を指します。
たとえば、街頭で「〇〇候補に一票を」と呼びかけることはもちろん、SNSで特定候補への投票を呼びかける投稿をすることも、選挙運動に当たり得ます。
この規定が設けられたのは1952年です。
当時は、選挙の際に未成年者が人手として大量に動員されるといった弊害があったとされ、国側は裁判でも、未成年者を不当な選挙運動から守ることが目的だったと説明しています。
原告は、提訴時に16〜18歳だった高校生・大学生ら4人です。
4人はいずれも、未成年だった2022年〜2024年の国政選挙や地方選挙で特定の候補者を応援しようとしたものの、周囲から規定違反になると指摘されて断念した経験を持っています。
原告側は、規定が憲法21条1項の保障する政治的表現の自由を奪うものだとして、①刑罰を科されることなく選挙運動ができる地位にあることの確認と、②表現の自由を侵害されたことに対する国家賠償(1人10万円)を求めました。
裁判所はまず、選挙権を持たない未成年者であっても表現の自由は保障されており、選挙運動の自由の担い手になり得ると確認しました。
そのうえで、この規定による制約が「必要かつ合理的」といえるかどうかを検討するという枠組みを示しました。
判決は、規定の目的が「選挙の公正の確保」と「未成年者の保護」にあること自体は認めました。
しかし、公職選挙法には、連呼行為や戸別訪問の禁止など、選挙の公正を守るための規制がすでに数多く設けられています。
裁判所は、これらに加えて未成年者の選挙運動を一律に禁止しなければならない理由は明らかでないと指摘しました。
また、禁止されるのが18歳になるまでの期間に限られることを考慮しても、未成年者の表現の自由に対する重大な制約であることに変わりはないと判断しました。
国側が主張した「人海戦術による動員」の弊害についても、公職選挙法に別途詳細な規定があることから、未成年者の選挙運動を一律に禁じる必要性は高くないとしています。
今回の判決で特に注目すべきなのは、規定を区別して評価している点です。
未成年者本人の選挙運動を禁止し、処罰する部分については、保護されるべき立場の未成年者を罰することは合理性を欠くとして違憲と判断しました。
一方で、大人が未成年者を選挙運動に「使用」することを禁じる規定は合憲とされました。
つまり、未成年者を組織的な動員から守る仕組みは維持しつつ、未成年者自身が自分の関心や判断で政治に参加することを罰するのは許されない、という整理です。
未成年者保護という規定の趣旨を否定するのではなく、その手段が行き過ぎていると判断した点に、この判決のバランス感覚が表れているといえます。
規定が違憲であれば、それによって被害を受けた原告に賠償が認められそうにも思えます。
しかし、国会が法改正をしなかったこと(立法不作為)が国家賠償法上違法とされるのは、極めて例外的な場合に限られるというのが最高裁の立場です。
具体的には、法律が違憲であることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期間にわたって改正を怠ったような場合がこれに当たります。
今回の規定は、1952年の制定以来、国会でその是非が具体的に議論されてきませんでした。
裁判所は、こうした経緯などを考慮し、国会が違憲状態を認識しながら放置していたとまではいえないとして、賠償請求を退けました。
このため、判決は形式上、国側の勝訴という形になっています。
総務省は、原告の請求は認められなかったものと理解しているとしたうえで、判決の詳細を精査する考えを示しています。
ここで注意が必要なのは、今回の判決によって規定がただちに無効になったわけではない、という点です。
日本の裁判所の違憲判断は、その事件の解決に必要な範囲で示されるものであり、法律そのものを廃止する効力はありません。
規定を実際に変えるには、国会での法改正が必要です。
したがって、現時点では18歳未満の選挙運動禁止は法律上有効なままです。
学校で主権者教育に携わる方や、選挙陣営でボランティアを受け入れる方、若いスタッフを抱える企業・団体などは、引き続き現行法を前提に対応する必要があります。
特に、SNSでの特定候補への投票呼びかけは、本人が気軽な気持ちで行っても選挙運動に当たる可能性があるため、周囲の大人が正しい情報を伝えることが重要です。
なお、禁止されているのはあくまで「選挙運動」であり、政策や社会問題について意見を述べたり、議論したりする政治活動全般が禁じられているわけではありません。
この区別を正しく理解しておくことも、若い世代の政治参加を萎縮させないために大切です。
※本記事は2026年9月28日時点の報道に基づいています。判決文の詳細が公表され次第、改めてお伝えします。
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