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同性婚に関する札幌地裁令和3年3月17日付け判決の概要(弁護士:下山田聖)

2021年4月9日

コラム

【事案の概要】

原告らが、同性同士の婚姻を認めていない現行の民法及び戸籍法の規定が、憲法13条、14条1項、24条に違反しているにもかかわらず、国が法律の改廃を怠っていることが国家賠償法上「違法」であるとして、慰謝料を請求した事案です。

結論として原告の慰謝料請求は認められませんでしたが、同性婚を認めないことは憲法14条1項に違反するとした裁判所の判断が注目されています。

 

【裁判所の判断】

1 憲法13条又は憲法24条の違反となるか→ならない

⑴ 

憲法13条は、広く幸福追求権を保障した条項です。

また、憲法24条は、婚姻の自由等を保障した条項です。

同性婚をする自由が、これらの条文を根拠に憲法上の権利として保障されているといえるのかどうか、判断がされています。

この点、裁判所は、明治期以降の日本社会における同性愛、同性婚に対する評価に照らして、「同性婚は当然に許されないものと理解されていた」ことから、昭和21年に公布された憲法は、同性婚について規定しないものと判断しています。
つまり、憲法24条1項の「婚姻」とは異性婚について定めたものであり、同項が保障するのも異性婚をするについての自由等に限られるということです。

そのため、民法等の規定が同性婚を認めていないことは、憲法24条には違反しないことになります。
また、幸福追求権を保障した憲法13条についても、同性婚という制度自体を憲法13条の解釈によってのみ導くことは困難であるとして、違反を認めませんでした。

 

2 憲法14条1項の違反となるか→なる

憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、心情、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定しています。

「法の下の平等」とは、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである」と解するのが確立した考え方です。
この「法の下の平等」の考え方を前提にすると、民法等の法律が、異性婚だけを認めて同性婚を認めていないことが「合理的な根拠に基づく」ものであるのかどうかを判断する必要があります。

裁判所は、異性婚が成立した場合の様々な効果を「婚姻によって生じる法的効果」と表現しています。
そして、同性愛者のカップルが「婚姻によって生じる法的効果」を受けられないことについて「合理的な根拠に基づくものであり」、立法府の裁量権の範囲内のものであるかどうかを検討しています(「立法府の裁量」というのは、同性間の婚姻や家族に関する事項を定めることについては、立法府が「広範な立法裁量」を有していること、すなわち立法府に広く委ねられていることが前提になっているからです)。

裁判所は、結論として、民法等の規定が、異性愛者に対しては婚姻制度を利用できる機会を与えているにもかかわらず、同性愛者に対しては「婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていること」について、立法府の広範な立法裁量を前提にしてもその裁量権の範囲を超えており、その限度で憲法14条1項に違反すると判断しています。

端的にいうと、同性愛者のカップルが「婚姻によって生じる法的効果」を享受できないことは、差別的取扱いに該当するということです。

 

3 民法等の改廃をしないことが国家賠償法1条1項にいう「違法」となるか→ならない

同性婚を認めない法律を放置していることが憲法14条1項の違反であるとしても、これが国家賠償法上も「違法」となり原告に損害賠償請求権が発生するかという点は別論です。
これは、法律の改廃をしないという立法不作為(要は国会の怠慢)を理由に国家賠償請求をする場合、その不作為が「違法」になるのは、「国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合など」に限られるとされているからです。

⑵ 

この点については、裁判所は、民法等の規定が憲法14条1項に反する状態に至っていたことについて、諸外国における同性カップルの許容する制度の構築や従前の日本国内の世論を前提にすると、立法措置を怠っていたとまで評価することはできないとして、国家賠償法上は「違法の評価を受けるものではない」と判示し、原告らの請求を認めませんでした。

 

【まとめ】

憲法に違反しているのに損害賠償請求が認められないという結論は、国民一般の感覚からすると違和感のあるものだと思います。
ただ、立法不作為を理由とする国家賠償請求に関する上記の考え方は従前から確立されているものであって、事実関係を前提にしてもこの結論を覆すのは難しいのではないでしょうか。

憲法違反、最終的な結論について、個々人の考え方や価値観は様々ですから、その是非に関する評論には立ち入りませんが、裁判所としても問題意識を明確にしたいという意図があったものと思われます。

 

この記事を執筆した弁護士

弁護士 下山田 聖

下山田 聖(しもやまだ さとし)

弁護士法人一新総合法律事務所 
理事/高崎事務所長/弁護士

出身地:福島県いわき市 
出身大学:一橋大学法科大学院修了

主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。
社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。

 

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