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労働条件の変更~第2回~(弁護士:下山田 聖)

2021年10月6日

コラム

この記事を執筆した弁護士

弁護士 下山田 聖

下山田 聖(しもやまだ さとし)

弁護士法人一新総合法律事務所 
理事/高崎事務所長/弁護士

出身地:福島県いわき市 
出身大学:一橋大学法科大学院修了

主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。
社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。

はじめに

第1回では、労働条件を規律する要素と労働協約、労働契約の変更に関する法的規律について解説しました。
今回は、就業規則による労働条件の変更に関する法的規律やその判断枠組みついて解説します。

就業規則による変更

会社が一方的に定める就業規則であっても、「変更の合理性」及び「変更後の就業規則の周知」の要件を満たした場合には、就業規則による労働条件の不利益な変更が認められます(労契法 10 条)。
ここにいう「変更の合理性」とは、変更後の労働条件自体の合理性ではなく、従前の労働条件から新しい労働条件に変更することの合理性を意味します。


就業規則の変更による労働条件の不利益変更が行われた場合、①これに同意する労働者には労契法 9 条が、②同意しない労働者には労契法 10 条が適用されます。
有効に同意をしたと認められる労働者との関係では、「変更の合理性」の有無にかかわらず、変更後の就業規則が
労働契約の内容となります。
同意が有効と認められない労働者については、同意をしなかった労働者と同様、労契法 10 条が適用されます。


労契法 10 条 1 項本文は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変
更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとす
る。」と規定しています。


そのため、(個別の労働者の同意を要せずに)就業規則によってのみ労働条件を不利益に変更する場合には、労契法の上記の条文が定める①から④までの要素から、変更が「合理的なもの」と評価できることが必要になります。

裁判例からみる就業規則変更による労働条件の不利益変更

総論

(個別の合意によらない)就業規則変更による労働条件の不利益変更の有効性の判断基準は、労契法 10 条 1 項本文に示されています。
この判断にあたっては、基本的には、労働者が受ける不利益の程度と変更の必要性を比較衡量することとし、その他の判断要素を加味した総合判断によることになります。
また、不利益の程度については、「個々の労働者が被る不利益の程度」が判断基準となるので、同一事業所内での労働者間においても、その判断内容が異なることもあり得ます。

賃金の不利益変更

⑴ 賃金等の労働者にとって重要な権利に不利益を及ぼすには、当該不利益を労働者に受忍させることを許容できるだけの「高度の必要性に基づいた合理的な内容でなければならない」とされており、変更自体に「高度の必要性」が求められています。

⑵ 定年延長に伴う賃金水準等の見直しによる就業規則の変更が争点となった事例では、「定年延長に伴う人件費の増大、人事の停滞等を抑えることは、経営上必要」と指摘し、「高度の必要性」を認めています。
会社として賃金の減額を検討せざるを得ないのは、主として財務上の問題を抱えているケースであり、裁判例でも、
会社の財務状況を中心に判断しています。
他方、厳密に財政上の理由に限られるというわけではなく、広くその必要性を検討すべきといえるでしょう。
裁判例においては、経営状況、親会社からの支援打ち切りの可能性、資金繰りがショートする可能性の程度、人件費の削減による経費削減効果の割合等の要素も含めた判断
がされています。


また、仮に賃金減額の割合が同一の事例であっても、当該賃金減額が一定の範囲内の労働者に関するものなのか、全労働者に共通のものなのかによっても判断が変わってきます。
たとえば、高年齢層にのみ不利益を強いるものであるとして、変更の合理性を否定した裁判例もあります。

⑶ 裁判例では、経費の削減の必要性があったとしても、それだけで直ちに「変更の必要性」を認めていないものもあります。
これは、人件費よりも削減すべきものはないのか、人件費を削減することが会社の経営状況の好転に有用なのか、という観点からも検討していることの現れであると思います。

おわりに

労契法 10 条 1 項本文が規定する各要素(①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情)に関する詳細は、次号
にて解説する予定です。

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年8月5日号(vol.259)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。


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