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2022年5月24日
コラム
山口県阿武町が、新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金につき、4630万円を誤って振り込んだ問題で、振込みを受けた者が、電子計算機使用詐欺の容疑で逮捕されたとの報道がありました。
電子計算機使用詐欺罪とは、どのような内容なのでしょうか。
まず、通常の詐欺罪(刑法246条)は、簡単にいうと「人」を騙して、金銭的な利益を得る、という犯罪です。
詐欺罪自体は昔からある犯罪類型ですが、騙される(=真実と異なる認識を持つ)のは「人」に限られ、「機械」が騙されることはない、という前提があります。
そのため、機械やコンピュータシステムを利用しての犯罪については、「詐欺罪」が成立しないという問題点がありました。
そのため、昭和62年に、「電気計算機使用詐欺罪」が新設され(刑法246条の2)、平成7年に法改正があったのち、現在に至っています。
電子計算機使用詐欺罪は、条文上、
①「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り」
または
②「財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して」
③「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」ときに成立する、とされています。
ここで、「虚偽の情報」というのは、当該コンピュータシステムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいう、とされています。
①の典型例は、データ上の預貯金残高を書き換えてその金額を引き出す行為であり、②の典型例は、偽造テレホンカードを使用する行為です。
さて、本件は、4630万円の振込みが誤振込みであることを認識しつつ、これを費消してしまったという事案です。
ここで、事案を詳細に考えると、振込み金額を誤ったのは「町」ですので、町と被疑者との関係では「誤振込」ということになりますが、被疑者と誤振込みを受けた金融機関との関係では、預金債権が有効に成立すると考えれば「誤振込」とはならず、「虚偽の情報」とまでは言えないのではないか、という疑問が残ります。
あくまで逮捕の基礎となった被疑事実が「電子計算機使用詐欺」ということだけで、実際の検察官がこの罪名で起訴するのかどうかは分かりませんが、仮に起訴するのであれば、刑法学的には法解釈について裁判所がどのように判断するのか、興味深いところです。
これは、刑事上の犯罪の成否の問題ですし、被疑者には民事上の責任は負うものと考えられますが、これだけ社会の耳目を引く事件ですし、世間一般から見ても、法律家から見ても、結論が注目される事件だと思います。
なお、本件での出金先のうちの資金決済代行業者の1社から、町に対して約3500万円の返金があったことが報道されました。
事後的に返済があったとしても、犯罪の成否には影響しませんが、実質的に一部の被害が回復されていることからすると、起訴するかどうかの判断や、起訴されたとしても量刑や執行猶予の有無の判断には影響してくるものと思います。
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