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2023年5月22日
コラム
5月18日午前、歌舞伎俳優の市川猿之助さんの自宅にて、その両親と本人が意識のない状態で発見され、母親はその場で死亡が、父親は搬送先の病院での死亡が確認されました。
一説には、一家心中を図ったのではないか、との報道もなされています。
「一家心中」自体は法律上の用語ではありませんが、一般的には、様々な理由から同居親族の全員がその命を絶つ、痛ましい出来事として認識されています。
一家心中を企図して、家族全員が死亡した場合には、刑事責任を問うことのできる主体がすでに存在しないため、刑事事件として立件されることはないかと思います。
他方、生存者がいる場合には、「死亡」という結果が発生している刑事事件として、生存者に何らかの犯罪が成立しないのか、という点が問題になります。
人が死亡する犯罪の典型としてイメージされるのは、「殺人罪」(刑法199条)です。
条文上は、「人を殺した者」は、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と端的に規定されています。
犯罪の成立に当たっては、原則として故意犯であることが前提になるので、殺人罪というのは、「人を殺す意図(=殺意)」をもってした行為の結果、(当該)「人」が死亡した場合に成立する、ということになります。
結果的に被害者が死亡していたとしても、殺意がないのであれば、殺人罪は成立しません。
では、被害者本人が死を望んでいた場合はどうでしょうか。
刑法では、このような場合は、殺人罪とは別個に処罰規定を置いています。
具体的には、①「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ」た場合には自殺関与罪(刑法202条前段)が、②「人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した」場合には、同意殺人罪(刑法202条後段)が、それぞれ成立します。
端的にいうと、被害者をそそのかして自殺させたり、自殺の手助けをしたような場合には自殺関与罪が、被害者に頼まれたり、被害者の同意をもらったりして殺したような場合には、同意殺人罪が成立するということです。
いずれの犯罪も、法定刑は「6月以上7年以下の懲役又は禁固」ということになっており、殺人罪と比べると低いものになっています。
無理心中を企図してそのうちの一人だけが生存した場合には、生存者がどのような行為をした結果、他の人たちの「死亡」という結果が発生したのかについて、捜査を尽くす必要があります。
捜査としては、ご遺体の状況等を含めた司法解剖の結果や、生存者本人の取調べ等が想定されます。
もちろん、訴追権限を独占する検察官は、犯罪が成立すると判断しても、様々な理由から「起訴しない」という判断をすることもできますから、すべての事件が裁判所の判断を受けるということにはなりませんが、ゴシップ的な意味合いを除いても、真相の解明が待たれるところです。
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