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2024年11月7日
コラム
このコラムでは遺産の中に株式があった場合の対応について、「相続と株式」に関する問題を3つのテーマに分けて取り上げます。
【取り扱うテーマ】
①株式の評価方法について
②株式の分散防止のための方策(会社側の視点)
③株式を譲渡する方法(株主側の視点)
被相続人の死亡により相続が発生した場合、その相続の対象となるのは、被相続人名義の財産です。
「被相続人名義の財産」には、資産のほか負債も含まれます。
相続の対象となる資産の典型は、現金、預貯金、不動産ですが、株式等の有価証券も相続の対象となります。
株式は、自由な譲渡が認められており証券市場で取引されているいわゆる上場株式と、譲渡制限が付されている譲渡制限付株式に大別されますが、いずれの株式も相続の対象となります。
株式に限らず、預貯金以外の資産について遺産分割をする際には、何らかの金銭的な評価をしなければ、公平な遺産分割をすることはできません。
上場株式であれば、日々の変動はあるものの基本的には相続開始時(死亡日)における取引価格を基準として差し支えないと思います。
他方、譲渡制限付株式に関しては、市場価格というものが存在しないので、別の方法で金銭評価をする必要があります。
相続税の申告に当たっての譲渡制限付株式の評価については、国税庁の通達により、原則として、大会社は①類似業種比準方式を、小会社は②純資産価額を、中会社は上記①及び②を併用する方式を採用して評価することとされています。
この大会社、中会社及び小会社は、会社の総資産価額、従業員数及び取引金額に応じて区別されます。
また、同通達においては、同族株主以外の株主が取得した譲渡制限付株式に関しては、特例として、③配当還元方式を採用して評価することとされています。
さらに、会社の状況によっては、④純資産価額方式によるとされている会社もあります。
遺産分割をするに当たっての譲渡制限付株式の評価方法が、上記通達に必ずしも拘束されるわけではありませんが、現実的には、相続税評価額をベースにして共同相続人間での合意を目指し、それができなければ最終的には裁判所が決することとなります。
なお、譲渡制限付株式の評価額が争いになった場合には、裁判所の傾向としては、上記①から④の方式を単独で用いるのではなく、当該株式会社の実情等に応じて複数の評価方法を併用して株式の評価額を決定する傾向にあります。
上場株式は基本的には投資目的で市場において取引されているのでさほど関係はありませんが、譲渡制限付株式の場合には、事実上、遺産分割の争いが経営権の争いになることもあります。
家族経営の会社にあっては取締役等の役員が株式の大多数を保有しているケースが多く、株式の取得比率によっては、いわゆるデッドロックの状態に陥ることも多いからです。
相続が発生した場合、共同相続人の法定相続分が決まっているので、それまで経営に関与していたかどうかを問わず、各共同相続人は自身の法定相続分を主張することができます。
相続によらずして株式を移転させる方法としては、生前贈与、死因贈与、遺言書への記載等の複数の方法があり得ます。
これらの方法を取ったとしても、共同相続人に最低限認められている遺留分の問題が発生することもあり、いずれにしても株式評価の問題は残存することとなります。
非公開会社における重要事項の決定は、主に株主総会の決議に委ねられています。
取締役会を設置していない会社の場合は、会社に関するあらゆる事項を株主総会で決定することができます。
取締役会を設置している会社であっても、①会社法で株主総会の決議事項と定められている事項、②定款で株主総会の決議事項と定められている事項については、株主総会決議が必須です。
また、役員の選任・解任は、株主総会での決議事項ですから、取締役会設置会社でも、株主が会社の支配権を有することには変わりありません。
株主総会決議の中で、決議要件が緩いのは「普通決議」ですが、この場合であっても、当該議案において議決権を行使できる株主の過半数が出席し、その出席株主の過半数の賛成がなければ決議をすることができません。
株式の保有比率や各株主の意向により、いわゆるデッドロックの状態が生じうるのは、このような理由からです。
したがって、会社の支配権を保有したい側にとっては株式の分散は避けなければならない事項です。
譲渡制限付株式の場合、株式が分散するのは、典型的には当該株主が死亡して相続が発生した局面です。
相続が発生すると、株式を含む相続財産は、一旦は各共同相続人の法定相続分に応じた共有状態になってしまいます。
したがって、株式の分散を防止するためには、①株主の死亡前に株式を移転させておくか、②株主の死亡後に会社の経営権を引き継ぐ予定の者に確実に株式が移転するような手段を講じておくか、のいずれかの方策を採る必要があります。
①であれば生前贈与という形になるでしょうし、②であれば死因贈与契約や遺言書による受取人の指定が考えられます。
では、現実に相続により株式が分散してしまった場合に、これを買い取る方法はあるでしょうか。
もちろん、当該株主との間で売買契約を締結することは可能ですが、敵対的株主との間で売買契約を締結するのは困難な場合もあります。
会社法上は、相続人に対する売渡請求(会社法175条、176条)の手続があります。
これは、会社にその旨の定款の定めがある場合には、株主総会の決議により、会社が、株式の相続人に対して、当該株式を売り渡すように請求できるというものです。
そもそも定款に定めがなければできないことではありますが、相続開始後に株式を強制的に買い取る方策としては有効であるといえます。
ただし、会社が相続の事実を知った日から1年が経過してしまうと、この売渡請求をすることはできません。
また、この請求は「売渡」の請求ですので、会社は取得対価を支払う必要があります。
株式取得の対価については、会社と当該株主との間での協議(会社法177条1項)、協議が整わなければ申立てにより裁判所が決する(同条2項)とされています。
株式取得の対価支払いというデメリットはありますが、会社の支配権を確保する方策として、定款の見直しをするのも一案かと思います。
ここまでは、相続が発生した場合に、会社側の視点から、株式が分散するのをどのように防止するか、という点についてご紹介しました。
ここからは、逆に、株主の立場から、自身が保有する株式をどのように譲渡(売却)できるかという内容を解説します。
公開株式の場合、株式は証券取引所で毎日取引がされていますので、適宜のタイミングで売却すること
には特に制約はありません。
非公開株式すなわち譲渡制限付株式の場合、自由な譲渡は制限されていますので、譲渡するに当たって
は会社の承認を得ることが必要です。
そのため、譲渡制限付株式の株主には、これから行おうとする譲渡について、会社に対する承認請求が認められています(会社法136条)。
この承認請求は、①譲渡しようとする株式の数、②譲渡先の氏名又は名称を明らかにしてする必要があります(138条1号)。
譲渡承認請求を受けた会社は、株主総会(取締役会設置会社の場合には取締役会)において、その譲渡を承認するかどうか決定します(139条1項)。
会社が承認請求をそのまま承認してくれるなら特に問題は生じませんが、会社が承認しないケースも
想定されます。
このような場合には、株主は、自身が保有する株式を処分することは一切できないのでしょうか。
会社法は、このような場合にも定めを置いています。
株主は、譲渡承認請求をする場合に、上記①②のほか、会社が承認しない場合には、会社自身又は会社が指定する買取人に対して、株式の買取を請求する旨を明示ことができます(138条1号ハ)。
そのため、自身が望んだ譲渡先への譲渡が承認されなかった場合であっても、株主の立場からは、当該株式を発行した会社又は会社が指定した買取人のいずれかに株式を譲渡することが制度上確保されている、ということになります。
なお、最近では、会社が譲渡承認しないことを見越して、少数株主から株式を先に買い取り、自身で譲渡承認請求をして会社と交渉をする業者も現れています。
相続財産の中に株式があった場合には、公開株式なのか非公開(譲渡制限付)株式なのかで、対応が変わってきます。
公開株式の場合には純粋に金融資産としての側面が大きいので、基本的には相続開始時
の市場価格をベースに、遺産分割の協議をすれば足ります。
他方、譲渡制限付株式の場合には、金融資産としての側面よりも会社の経営権確保という側面の方が
重要になってきます。
株式保有比率は会社の支配権に直結するという認識のもと、経営者の代替わりに備えておくことが重要かと思います。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心2024年7月~9月号(vol.294~296連載)」にて連載として掲載>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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