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労働条件の変更~第1回~(弁護士:下山田 聖)

2021年9月5日

コラム

この記事を執筆した弁護士

弁護士 下山田 聖

下山田 聖(しもやまだ さとし)

弁護士法人一新総合法律事務所 
理事/高崎事務所長/弁護士

出身地:福島県いわき市 
出身大学:一橋大学法科大学院修了

主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。
社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。

労働条件を決めるもの

 会社と労働者との間の労働条件は、労働基準法(以下「労基法」という。)をはじめとする労働関係諸法のほか、会社と労働者との間で個別に締結される労働契約、就業規則、労働協約(会社と労働組合との取り決め)によって決
められます。


労働者の保護のため、労働契約においてどのような定めをしてもよいというわけではなく、労働関連諸法に最低基準が定められていたり、就業規則や労働協約が優先するという定めになっていたりする点については、注意が必要です。

労働関連諸法

労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等により、労働契約の最低基準が定められています。

仮に、労働契約、労働協約、就業規則でこれらを下回る基準を定めたとしても、法令の基準に達しない部分は無効となり、無効となった部分には当該基準が補充されます。

労働協約

労働協約(労働組合法〔以下「労組法」という。〕14 条)は、会社と労働組合との団体交渉により締結されるものです。

労働協約は、労働条件の決定に当たって法令に次ぐ優越性を認められており、就業規則よりも優越します。

労働協約自体は、「組合」と「会社」の合意により成立するものですが、第三者たる組合員の労働条件を直接に規律します。

また、一定の条件のもとで、当該労働協約を締結した組合の組合員以外の従業員にも効力が及ぶ場面もあります(労組法 17条、18 条)。

就業規則

就業規則は、会社が作成するものであり、常時 10 名以上の労働者を使用する会社には、その作成や労働基準監督署への届出が義務付けられています(労基法 89 条)。

就業規則は、労働者に「周知」することでその効力が発生し、就業規則が定める条件が労働契約の内容になります(労働契約法〔以下「労契法」という。〕7 条本文)。


この「周知」とは、労働者が知ろうと思えばいつでもその存在・内容を知ることができるようにしておくことで足りるとされています。

就業規則の内容は、法令及び労働協約に反することはできません(労基法 92 条、労契法 13 条)。

労働条件の変更(総論)

1. 労働条件を変更する三つの方法

労働条件を変更する方法として、①労働協約の改定、②会社と労働者との合意(労働契約の変更)、③就業規則の改定、の三つの方法があります。

ただし、労働者が多数の場合には、②の方法によって全体の労働条件を変更することは難しいでしょう。

また、労働契約を不利益に変更する場合、就業規則を下回る労働条件を定める労働契約は無効になってしまうので(労契法 12 条)、併せて就業規則の変更が必要になります。

2.  労働協約による変更

労働協約は、労働契約や就業規則に優先するので、労働協約が変更できれば、労働契約や就業規則の変更がなくとも、労働条件が変更されることになります(労組法 16 条、労基法 92 条)。

ただし、一部の組合員のみをことさら不利益に取り扱うことを目的にする等、労働組合の目的を逸脱して労働協約を締結したような場合には、変更が認められないことがあります。


また、「常時使用される同種の労働者」の 4分の 3 以上を占める労働組合との間で労働協約を締結した場合には、特段の事情がない限り、当該労働組合の非組合員(他の労働組合に加入している者を除く。)にも効力が及びます(労組法 17 条)。

労働契約の変更(個別合意)

労働契約の変更(個別合意)によっても、労働条件を変更することができます。

ただし、個別の労働者との間で就業規則を下回る労働条件に変更したとしても、労働契約と就業規則とでは就業規則が優先される結果、併せて就業規則の変更を行わなければ、当該個別合意は無効になります。


個別合意により労働条件を不利益に変更する場合、外形的に合意があったように見えても、これにより直ちに合意があったとは認められない可能性があります。

また、「合意」自体は黙示の合意でもよいとされていますが、単に労働者が異議を述べなかったという程度では、黙示の合意があったとは認められないでしょう。


さらに、労働者にとって重要な労働条件(賃金、退職金等)に関する合意については、判例により、

「労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、…… 当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。…… 労働者の同意の有無については、①当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、②当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度③労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様④当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべき」(マーク及び丸数字は筆者挿入)

とされています。

おわりに

紙幅の関係で、労働条件の決定要因のうち、就業規則に関する部分と、変更の合理性が争われた事例に関する解説は次回以降の号でご紹介する予定です。

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年7月5日号(vol.258)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

◆労働条件の変更~第2回~◆はこちら


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